2007年07月09日

Notホモネタ(エヴァンズマン除く)

コソーリ書いていたケツイのSSをば。
エンディングを私と部長で解釈した結果です。
エヴァンズマンの「彼」は、おいらの独断と便宜上でアリスということにしました。
公式ではアリスとは別の人なんだよね、たぶん。


 EI社が壊滅してから、1ヶ月が経とうとしていた。
 かつてEI社の巨大な工廠があった場所は無残な瓦礫の山と化していたが、一部が既に更地にされ始めている。おそらくどこか別の会社が早々に敷地を買い上げたのだろう、と誰かが話していた。また同じような工場が建つのだろうか。……そしてまたいつか、今回のようなことが起こるのだろうか。
 「ふわあ」
宿舎の窓から外を眺めていたユウマは欠伸を一つすると、つけっぱなしのTVの前に座った。
 彼は暇をもてあましていた。他の3人は残務処理がいろいろとあり忙しい様子であったが、今回の任務に際して最低限の情報と役割しか与えられていなかったユウマにはほとんどやることがなく、指示があるまで待機せよ、と言われたままほったらかしにされていた。「サンダーボルト」上層部による監視付きであれば外出も可能、と言われてはいたが自分の暇つぶしのために他人の手を煩わせるのはあまりにも億劫だった。
 今日もTVはEI社のニュースばかりを流している。世界的大企業であるEI社が、“開発中の事故により壊滅し、それによって『死の商人』としての裏側が明らかになった”というニュースは確かにセンセーショナルなものだろう。しかし流石に、もう飽きた。

 するともなしにがちゃがちゃとチャンネルを変えていると、珍しく別のニュースが流れていた。南方の某小国が“異例の国連軍の介入により”植民支配から独立を勝ち取ったと言うニュースだった。国の名前には聞き覚えがあった。……確か、ユレクの祖国だ!

 「ユウマ!」
それを思い出すのとほぼ同時に、部屋の扉が叩かれた。絶妙のタイミングで来訪してきたのは、ユレクその人だった。彼のこんなに嬉しそうな顔は、今まで見たことがなかった。
「ユレク、ニュース見たよ。おめでとう!」
ユウマの祝福の言葉にユレクは大きくうなずいて鼻をすすった。彼の目は赤くなっていた。おそらく相当男泣きにむせび泣いたあとなのだろう。
 ユレクの足元に置かれた、私物をまとめた荷物にユウマは目を留めた。
「国に帰るんだね、ユレク」
ユレクは少し寂しそうな表情になる。ユウマはそれを肯定の意味として受け取った。
「……ああ、祖国の皆がいる所に俺も帰る。短い間だったけど世話になったな、ユウマ」
振り返れば本当に短い任務ではあった。ユウマはその内容を思い出そうとしたが、自分が本当に役立たずでユレクに負担をかけた記憶しか再現できなかった。
「そんな……きっと僕がユレクに世話をかけちゃったことしかないよ。こんな下っ端で何も出来ない僕と組まされて、ユレクには苦労ばっかり」
「その通りだな」
ユレクは笑ってユウマの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。任務中もいつもこんな感じで子ども扱いをされていたっけ。ユウマも笑った。だが次の瞬間、ユレクは真剣な表情になってユウマの目を覗き込んだ。
「でもそれでいい。何も出来なくていい。お前みたいな若い奴が戦ったりしたらダメだ。……俺たちは本当に、お前を死なせなくて良かったと思ってる」
ユレクは詳しくを語ろうとしていなかったが、彼の祖国で女性や子供までもが独立戦争のゲリラ戦に参加しているということは誰もが知る事実であった。ユレクは誰よりも戦争に近い場所に居て、戦争を憎み、戦争を生み出すEI社を憎んで生きてきた。彼の中で幾度となく、ユウマの姿は犠牲となった彼の幼い仲間と重なっていたのだろう。
 「さて」
ユレクはいつもの飄々とした表情に戻ると、足元の荷物を肩に担ぎ上げた。
「そろそろ行かなくちゃ。もうお前と会うこともないと思うけど……またな。元気でなユウマ」
ユウマは大股で歩き去っていくユレクに、黙って手を振るしか出来なかった。本当にユレクとはもう二度と会えない気がして、言葉が出てこなかった。

 しばらく経つと、エヴァンズマンがやってきた。ユレクが祖国に帰れたということは、ユウマたち3人のこれからの処遇ももう決まったのだろう。
「スティールは挨拶に来たかな」
「はい、ちょうど独立のニュースを見た後で。おめでとう、と言って別れました」
「そうか……彼は本当に、それだけを望んで戦っていたからな」
彼も今日でこの場所を去るという。ユウマはユレクの時と同様に、彼に感謝の言葉を述べた。
「本日付で、我々の任務は全て終了した。あとで軍の担当者が君の元に来る。これからどうするか、そこで決めてもらうことになる。軍に残るのも、他の仕事に就くのも、学業にいそしむのも……好きなようにして良い。しばらくはEI社の残党を警戒するために軍の監視だけは付けさせてもらうが、君は自由の身だ」
個性の豊かな3人をまとめ上げるリーダーとしての苦労から開放されたのもあるのだろう。初めて見る私服姿のエヴァンズマンは、表情もどこか穏やかであった。ユウマもいつもより気負わずにエヴァンズマンといろいろな話をして別れた。
 ……だが、ユウマの知りたい情報はまだ彼の口から聞き出せてはいなかった。
「あの」
エヴァンズマンの足はすぐに止まった。当然と言うべきか、彼もユウマに「それ」を尋ねられるのを待っていたから。
「兄さんは……どうなるん、ですか」
周囲が引いてしまうほどあからさまに毛嫌いしていた兄の処遇を尋ねることで、ユウマのプライドが傷ついているのがありありと分かる。だがアリスがユウマの元に別れの挨拶に来るとは考えにくく、今後のことはエヴァンズマンに尋ねるしかない。兄への想いに打ち勝てるほどには、そのプライドは高くなかったようだ。
 エヴァンズマンは安堵したように息を吐いた後ゆっくりと振り返った。任務の時と、同じ表情で。
「残念だが、彼は今後君に会うことはない」
エヴァンズマンの言葉の端に嫌な響きがあった。ユウマはそれを鋭敏に感じ取ったらしく、少し早口に聞き返してきた。
「どういう事ですか」
ユレクに感じたのと同じ何かを、エヴァンズマンも纏っている。そしてきっと、兄も。


 「彼は死んだ」


 ユウマはしばらく黙ったままだった。だがそのぐらいの反応は予想済みであった。エヴァンズマンは気を悪くする様子もなく、じっと彼のことを見守っていた。
「……どうして」
沈黙はわりに短い時間で終了したように、エヴァンズマンには思えた。だが彼と若いユウマとでは、時間の感覚が違う。ユウマがやっとのことでひねり出したであろう短い質問に、エヴァンズマンは答えた。
「初めに言っておこう、君にはほとんど今回の任務の内容を知らせていない。なのでところどころ、私の説明の意味が分からない部分もあるかもしれないが、それについては決して探ったりしないように。全ては君自身を守るためだ」
エヴァンズマンは複雑そうな表情をしていた。アリスの死を悲しんでいるのか、それとも。

 ――EI社の壊滅の原因が我々、サンダーボルト軍による武力攻撃であることは、“依頼元”からの意向で完全極秘にするよう厳命されていた。任務の終了後は速やかに、これに関するあらゆる証拠を消去することとなっていた。それにはもちろん実行者の生命も含まれている。
 だが、実行者には「その命の報酬として、どんな望みでも一つだけ要求することができる」とされていた。スティールは彼の、祖国独立の願いを叶えるために志願してきた。時間の掛かりそうな望みだったが、今日それが晴れて成り立ったので、ここで任務の全てが終了とされた。
 ユウマ、君が知っている通り、アリスは社員としてEI社に潜り込みスパイ任務を行っていた。しかし彼はある任務を行った時に、EI社にその素性を知られてしまった。彼一人であればサンダーボルトで必死に隠匿しておけば済む話だろうが、肉親である君がいた。
 すぐにアリスはEI社壊滅の任務に志願してきた。「ユウマを自分の任務に起因する、あらゆる危害から保護するように」という望みを携えてね。我々はアリスの望みを成就させるために、あえて君をサンダーボルトの、そしてアリスの手元に置いておく道を選んだ。アリスを君の前から去らせて、君が軍へ追いかけてくるようにした。さらに今回の任務への志願をそれとなく勧め、採用した。
 我々は“依頼元”とも相談し、任務の完遂後も君を消去しないで済む程度の情報と役割を与えた。スティールがいたのは幸運だった。彼は性格はともかく、腕前だけならアリスよりも遥かに上だったからな。安心して君を任せられた。
 失敗するとは思っていなかったが、本当に、無事遂行できてよかった。任務も……アリスの願いも。

 「……」
ユウマはどんな感情を表に出していいか分からなかった。何を悔やみ、何を恥じ、何に怒り、何に喜んで良いのか分からなかった。ただ涙だけがとめどなく溢れて、それに身を任せるしかなかった。
 兄と最後に交わした言葉を思い出した。ユウマに憎まれ嫌われているままになっていた、寡黙な兄が出撃前に、珍しく自分から話しかけてきた言葉であった。昔とまったく変わらない、せっかちなユウマがどんどん話の先を読んでくれることを期待しているような、小さな声でゆっくりとした口調で。
「戦うのも、そして死ぬのもオレだけでいい……。ユウマ、お前は死んではいけない。必ず生きて帰るんだ。」
 兄の自分への愛情を知っているから、捨てられたことを憎んだ。ひねくれて、あえて自分の身を危険に晒した。でも兄は、ユレクは、エヴァンズマンはそんな自分を、命を賭して守りきった。自分の全ては兄の掌の上にあった。兄の愛情の中から、指一本もはみ出すことは出来ていなかったのだ。
「……兄さん」
口にした途端に兄への想いが爆発した。
「兄さん!兄さん!!兄さん!!!」
ユウマはエヴァンズマンにすがって泣き叫び続けた。兄が押し殺してきた感情の分、どれだけ泣き叫んでも許されると言わんばかりに。

 「……僕、サンダーボルトに残ります」
その後ユウマの身柄を引き取りにやってきた軍の担当者に、ユウマはこう告げた。
「いつか、僕にも守りたい大切な人が出来たら……きっとその人を守りきります。兄が、そうしてくれたように」
エヴァンズマンも満足そうにうなずいた。
「それがいい。君は素直で努力家で、何よりアリスの弟だ。きっと有能な軍人になれる」
 別れ際、ユウマはエヴァンズマンに尋ねた。
「エヴァンズマン、貴方の、命懸けで叶えたい願いはなんだったんですか?」
彼は少し頬を赤らめて笑った。
「言えないな。君には刺激が強すぎる」


 アリスは、これから自分の居室になる場所を見回した。
 高級マンションの一室のような、ホテルの一室のような……いずれにしろ、“監禁されるための”部屋としては不相応な待遇であった。
「君の生活は、先ほど説明したとおりである」
軍の担当者の声が扉越しに聞こえる。
「本来君は生かしておけない人間である。よって許可なく外部との接触を試みたり逃げ出そうとした場合は、即座に殺害する。また、君が自らの命を絶とうとした場合、我々はそれを妨げない」
「了解した」
アリスは返事をしたが、それに対する返答はない。
 エヴァンズマンの望みは、手に入れようとしても手に入らなかった「愛する人」を一生他人に渡さないように閉じこめておくことであった。
「……彼らしい愛しかただ」
アリスは自分を監禁した主のことを想い、照れたように笑った。
「だけど、悪くない」
二重に鉄格子が張られた窓からは、EI社の明かりがなくなってしまったからか、星が良く見えた。
「アリスは弟のために死んだ。ここにいるオレは、貴方だけのものだ」
流れ星が視線の端で消えた。今日、2つ目だ。

<了>
posted by KEI-KO Fujisaki at 20:38| Comment(2) | TrackBack(0) | ケツイ〜絆地獄たち〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
きのうはエンディングみたいな独断する?
Posted by BlogPetのでぃんどん at 2007年07月10日 11:05
おぉぉ…これはいいエンディグ。
しかも文章が上手いですね〜。
面白かったです^^*
Posted by 248 at 2007年07月17日 00:32
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